INTERVIEWインタビュー

“開けていない扉を開ける”
60年変わらなかったコインロッカーの常識を変える挑戦

スマホがカギになるスマートコインロッカー「SPACER」。コインロッカーをスマホで予約し、自分自身で使うだけでなく、カギを友人や家族、取引先とスマホ経由で共有できる。私たちはこのプロダクトを通じて、コインロッカーの常識を変え、新しい価値を世の中に生み出そうと挑戦を続けています。

今回、パーソルキャリア株式会社による取材に、当社代表の田中が答えました。SPACERの取り組みや、私たちが今後実現したい未来像についてお話ししています。

プロフィール

田中 章仁
SPACER CEO

日本メンサ会員。銀座ミツバチプロジェクトを親子で運営し、日本で最も有名な社会起業事例の一つを作る。配送問題の不備を予見し、対策モデルを構築し2016年7月、会社を設立。メンサのハッキングチームに所属し、セキュリティコンテストCTFにおいて個人で世界上位10%。SD15,IQ160。

“スマホカギ”が広げる、コインロッカーの利便性

―SPACERの特長について、あらためて教えてください

SPACERは、スマホでカギの開け閉めができるスマートコインロッカーです。これまでのコインロッカーの使われ方としては、自分でロッカーに物を預けて、自分で取り出すというものがほとんどでした。しかしSPACERでは、スマホを介してカギの開け閉めを行うため、物の受け渡しなど、ロッカーの用途を大きく拡大することができます。物理的なカギではなく、スマホアプリを通じてロッカーを操作できることが大きなポイントです。

特に、新型コロナウイルスの拡大をきっかけに、ユーザーの行動は大きく変わりました。直接会わずに物を受け渡せるため、ECで購入した商品やクリーニングなどをロッカーで受け渡すという用途が増えてきています。出勤するついでに物を預けたり、受け取ったりと、生活導線のなかで有効に活用いただいている事例が増えてきていますね。

―コインロッカーの使い方が大きく変わると思います。一方でセキュリティ面での懸念はないのでしょうか?

システムを介して、コインロッカー利用のログが取れること。これがセキュリティ面での大きなポイントになります。従来のコインロッカーは物理的なカギを使用するため、どんな人がいつ使ったかをデータ化することができず、悪用されてしまう懸念もありました。SPACERはロッカーの利用履歴をデータとして残すことができるので、半匿名の状態であってもセキュリティが担保されます。

物の受け渡しを安全に、直接会わずにできるので、現在では中古買取市場でも利用いただいています。郵送や対面での受け渡しに伴う安全面での懸念や心理的なハードルがないため、気軽に取引ができるというニーズに応えられているのだと思います。

法人の導入コストとセキュリティを大きく改善

―個人ユーザーだけでなく、法人の導入も進んでいると伺っています。

はい、現在西武鉄道様、JR九州様、ららぽーと様、イオンモール様などの企業に導入いただいています。今日本にはおよそ140万台のコインロッカーがありますが、そのほとんどが物理カギです。これをより安全な電子式のカギに刷新していくにあたり、SPACERを活用いただいています。

導入いただいているポイントとしては、まずコストの安さがあります。従来の電子式のカギは、ロッカーの筐体に導入するコンピュータのコストが非常に高額でした。SPACERはそれをスマホに切り離しているので、コインロッカーごとにコンピュータを導入する必要がなく、安価に電子カギへの移行を実現できています。

また、セキュリティのアップデートが低コストで、利便性高くできることもポイントです。従来型の電子カギでは、現地で技術者が直接システムをアップデートしないといけませんでしたが、SPACERならアプリをアップデートするだけです。システムがアップデートされたら即座に反映でき、人的コストも削減できる大きなメリットがあります。仮にシステムのセキュリティを破られたとしても、筐体に繋がっていないためロッカーを開けることができません。ユーザーがハッキングで不利益を被る可能性は、今のところゼロだと考えています。

カスタマイズ性が高いことも法人にとっては大きなメリットです。設置される駅や施設の特性に合わせて料金体系などを柔軟に変えられるので、各事業者様のビジネスや地域の特性を活かして利用いただくことができるようになっています。

イタチごっこのセキュリティを、根本から変えるサービスを

―SPACERを構想したきっかけについて教えてください

SPACERは、当社の丸山と田中との共同で開発しました。丸山と田中とはメンサのコミュニティで出会ったのですが、それぞれセキュリティに関して非常に知見がありました。当時は一緒に世界中のセキュリティコンテストに参加していて、上位に入賞する成績をおさめていたこともあります。

市場の背景としては、創業する前の2016年に大手フリマアプリの登場により、リユース市場が活性化していたことがあります。前職のNPOで環境に関する取り組みに携わっていたこともあり、リユース市場の拡大に注目していたところ、「ロッカーで受け渡しをやったらいいんじゃないか」と思いついたことがSPACER開発のきっかけになりました。

セキュリティをどう担保するかということが課題でしたが、テクノロジーが発達するとセキュリティは破られて、強化して、また破られてというイタチごっこになります。そこで根本的にロッカーのセキュリティを担保するために、筐体には通信機器を載せないようにしようと考えたことが、「スマホで開け閉めするロッカー」としてのSPACERの構想に繋がりました。

スマートコインロッカーが生み出す、新しいサービス

―SPACERは今後どのような活用が見込まれるのでしょうか?

最近の事例としては、医療業界での利用が広がってきています。現在オンライン診療が解禁されて、処方せんもオンラインで受け取れるようになりました。ただし、薬は物理的に受け取る必要があるので、その受け渡しのために活用いただいています。

たとえば駅前のコインロッカーをSPACERで薬の受け渡し場所に指定し、患者さんの体調がよくなったときに処方薬を受け取ることができます。非対面で受け取れるので、感染症拡大防止にも有効だと考えています。また小さいお子さんがいる方にとっては病院で処方薬を受け取るための待ち時間も負担になることがあるため、都合のいいタイミングで受け取れることもメリットですね。

鉄道業界では、鉄道会社様のアプリとAPI連携し、鉄道会社様のアプリで駅のコインロッカーの開け閉めができるようにもなっています。アプリをまたがない利用ができるので、ユーザーの利便性が高まり、導入が進むきっかけになっています。こういった事例をもとに、SPACERの全国展開に取り組んでいるところです。

―今までのコインロッカーでは実現できなかったさまざまなサービスが実現できそうですね。

ユーザーの利便性を高めるだけでなく、新しいサービスを創出できる可能性もあると思っています。駅のコインロッカーでさまざまな物の受け渡しが行われれば、人が駅に来る理由が生まれます。現在は新型コロナウイルスの影響で駅に人の流れが少なくなっているなかで、駅に人を呼び戻す新しい試みとして注目されています。駅周辺のサービスとも連携し、新しいサービスを生み出していければと思っています。

日本に140万台あるコインロッカーのカギをデジタル化するという目標に取り組んでいるのは、SPACERだけだと自負しています。

コインロッカーというのは60年間も大きな変化が起きなかった世界です。そこに大きな変化を起こすこと、それを私たちは「開けていない扉を開ける」というミッションとして表現しています。コインロッカーの常識に変化を起こすための取り組みに、これからも一つひとつしっかりと挑んでいきたいと思っています。